掃海艇「えのしま」型
JMSDF MSC ENOSHIMA CLASS

↑ MSC-604 ENOSHIMA JMSDF Fleet Review 2012
(写真上)平成24年度観艦式に参加したネームシップの「えのしま」
基準排水量:570t、満載排水量:660t
船質:FRP
全長:63.0m、幅:9.8m、吃水 2.5m
主機/軸数 ディーゼル2基(搭載主機 三菱6NMUディーゼル)/2軸、出力:2200馬力、速力:14ノット
兵装:20mm多銃身機銃×1、掃海掃射具一式(小型係維機雷掃海具、感応機雷掃海具、水中航走式機雷処分具)
乗員:45名

えのしまMSC-604平成20年度計画ユニバーサル京浜事業所 平成24年3月21日竣工
ちちじまMSC-605平成21年度計画ジャパンマリンユナイテッド横浜事業所鶴見工場平成25年3月21日竣工
はつしまMSC-606平成23年度計画ジャパンマリンユナイテッド横浜事業所鶴見工場平成27年3月19日竣工

海上自衛隊初のFRP製掃海艇

江ノ島 父島 初島
磁気機雷に対応する為に掃海艇の船体は木造である事が一般的であった。
しかし、1980年代にはいるとガラス繊維強化プラスチックGFRP(FRP)を採用した掃海艇が竣工し始める。イタリア海軍の「レリチ」級やイギリス海軍の 「サンダウン」級などである。この背景には技術の進歩が大きいのはもちろんだが、根本的な問題として木造船の寿命の短さがあった。海自木造掃海艇の場合、 耐用年数は15年程度でしかない。他国では木造艦艇建造から早々と撤退する例が多かったが日本では木造掃海艇建造技術が維持されていた事もあり21世紀 になっても木造の「すがしま」型や「ひらしま」型が建造されたのであった。

昭和55年にはFRP実験艇「ときわ」が建造され各種実験を行った

実は昭和55年に防衛庁技術研究本部の予算でFRP実験艇「ときわ」が建造され将来のFRP製掃海艇建造の為の各種実験が行われていた。だが、この時には実用レベル 到達には及ばなかったようでその後も木造掃海艇の建造が継続された。FRP船体は木造に比べ音響機雷に弱いらしくその点が問題視された為だと思われる。

2000年代後半になり英伊に20年以上遅れてようやく日本製FRP掃海艇が建造された
しかし、木造船建造の技術が失われるのは残念だ

しかし、平成20年度(2008年度)予算で海自初となるFRP製掃海艇「えのしま」の建造が開始され24年3月に竣工した。
FRP船先進国である英伊に比べ20年あまりも遅れた事になる。船体をFRP化した事による最大のメリットは船体寿命が大幅に伸びた事で木造艇の約15年に対して 約30年と言われる。また、船体強度、耐食、電気絶縁でも相当な向上が図られている。建造コストは多少高くなったようだがライフサイクルコストは格段に向上した。 ただし、木造船体の技術が今日では旧式化した、という事ではない。

木造船体にはなお多くのメリットがあり我が国で長くその技術が維持されてきたのは世界に誇るべき事であった。FRP船体の技術革新が進む事はもちろん 喜ばしいが木造掃海艇の建造が終了すれば貴重な技術が失われてしまうのも危惧される事実だ。
(写真上)「えのしま」艇橋部

艇橋後部旗甲板上に設置された信号旗掛けは左右両舷にある。艇橋内部には操舵装置が設置されている。


真空樹脂含浸製造法VaRTMとサンドイッチ構造

「えのしま」型ではFRPの成形手法として真空樹脂含浸製造法VaRTMが採用された。VaRTMは最近の宇宙航空開発や舟艇建造で使用されており必須の技術となっている。 船体構造はFRP船体で一般的なサンドイッチ構造で建造されている。


(写真上右)前甲板に搭載された20mm多銃身機銃/(写真上中)艇橋付近/(写真上左)後部掃海甲板

本クラスの当初計画では海保巡視船「はてるま」型と同系のブッシュマスター系の強力な30mm級機関砲の搭載が予定されていたが 予算上の理由で従来と同じJM61系が採用された。予定通り30mm級機関砲が搭載されていたら哨戒任務でも相当な威力増となっていたであろう。 後継艇では是非とも30mm級の装備を期待したい。なお、3番艇「はつしま」では遠隔操作型の20mm機銃が装備され掃海艦「あわじ」型も同様となった。

艇橋直前の甲板室はCIC区画であり掃海用情報処理装置など「えのしま」の頭脳とも言うべき機能が集中している。CIC区画の直下は科員居住区 となっている。なお、本クラスの上部構造物も船体と同じくFRPである。
機雷処分具S-10・1型
(写真上)後部掃海甲板

後部甲板には各種掃海倶が多数搭載されている。機雷掃討は「ひらしま」型と同じく国産処分具S-10・1型が行う。 対機雷戦システムは国産化されたもので「ひらしま」型に装備されたものの発展型であり機雷探知機も「ひらしま」型と同じZSQ-4が装備されている。

機雷処分具S-10・1型

高性能ソナー内蔵の水中航走式掃射具で遠隔操作式無人機ROVである。機雷の処分は爆薬及び頭部のカッターで行う。爆薬は本体下部に1個搭載出来る。 機雷処分具は国産化の努力が行われてS-4、S-7と国産処分具が制式化されたが「すがしま」型ではフランス製PAP104が採用された。国産処分具は必ずしも期待された性能が発揮出来なかったと 伝えられるので一旦、外国先進技術の導入が図れたようだが再び国産化が行われてS-10・1型の採用となった。


(写真上左)掃海用電線と巻揚げ装置/(写真上右)掃海浮標

掃海用電線は音響機雷を処分する際に使用する。掃海浮標は係維機雷を機雷掃海具で処分する際に使用するフロートである。最近の他国の掃海艇は掃討具のみ搭載し掃海具は搭載しないのが 主流だが海自では依然として掃海具も併用している。「ひらしま」型、「えのしま」型では小型係維掃海具が搭載されている。


(写真左)再圧タンク

水中処分員が乗艦する掃海艇では減圧症対策として再圧タンクは必需品だ。掃海母艦に装備される再圧タンクに比べるとかなり小型である。



「えのしま」艇尾付近

(写真上左)「えのしま」艇尾/(写真上右)右舷後方から見た「えのしま」

艇尾には補強材が装着されている。後部掃海甲板には掃海用ダビッドが装備されている。煙突は直線デザインでステルス性を意識しておりこれも海自掃海艇では初の採用である。


「えのしま」型は3隻で建造終了、本クラスの拡大改良型である「あわじ」型が建造されている

なお、「えのしま」型は3隻で建造終了する。後継は本クラスの拡大改良型とも言うべき690t型掃海艦「あわじ」型である。 今のところ次期掃海艇の建造は予定されず今後は掃海艦に統一される可能性もあり得る。平成28年7月には掃海隊群の改編が行われ隷下に第1輸送隊が編入された。


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太平洋の海鷲
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