※要目は乙型
重量
・自重:12.1t、全備重量:13.0t
全長:5.75m、全幅:2.18m、全高:2.56m
エンジン:ディーゼル(三菱空冷直列6気筒)、出力:180馬力、最大速度:25km/h
武装
・57粍戦車砲×1、6.5mm粍機関銃×2
乗員:4名

当時の国力や実戦場の現実を考慮し軽量小型を旨として開発された八九式中戦車

八九式中戦車は国産初の試製一号戦車に次いで開発された戦車であり本格的に量産配備されたものとしては我が国初の存在となった。 八九式の開発にあたってはイギリスより輸入したヴィッカースMk.Cが大いに参考され駆動関係など外観にもその影響が色濃く感じられる。 重量増加が指摘された試製一号戦車に対して八九式は軽量小型を旨として開発され初期生産車両は重量9.8tで当初は八九式軽戦車として制式化されている。 その後も日本国産戦車は軽量小型が重視されており八九式はその原型となった。

ところで日本製戦車は軽量小型故に欧米の重火力戦車に対して貧弱だった、 という後世の批判がよく聞かれる。確かに装甲や火力の劣勢は否定出来ないが当時の陸軍が主戦場と考えた支那大陸や南方地帯のインフラ状況や日本の限られた 資材や生産力・輸送力の実態を考えれば陸軍の戦車開発方針は完全な誤りであったとばかりは言えない。

当時の日本は資材・生産力は海軍が優先されていた。陸軍においても 戦車以外にも火砲、航空機、輸送用船舶など他に開発生産しなければはらない兵器や装備は幾らでもあった。大東亜戦争期においても強力な米軍M4戦車を凌駕するような戦車を開発量産し 南方地帯に大量配備するなど到底実現不可能だったのである。

航空機用ダイムラー製水冷ガソリンエンジンを搭載した甲型と三菱製空冷ディーゼルエンジンを搭載した乙型

八九式はその後の改修で重量が11.5tまで増加し八九式中戦車と再度、制式化されている。
八九式の初期生産型である甲型はダイムラー製の航空機用水冷ガソリンエンジンを搭載していた。後期型である乙型は三菱製の空冷ディーゼルエンジンを搭載した。 以後、日本の戦車はディーゼルエンジンが標準装備となる。ディーゼルに比べ揮発性が高く発火し易いガソリンエンジンは戦車用としては不利とされる。日本が ディーゼルを重視したのはむしろ燃費の良さを重視したからだと思われるがアメリカやナチスドイツは戦車にはガソリンエンジンを採用した。

米独両国は戦前より モータリゼーションが確立しており大量のガソリンを供給出来たのがその理由とされる。しかし、デイーゼルエンジンには重量が重くガソリンエンジンに比して 出力が低い、というデメリットもある。また、高速の対戦車砲弾が命中した際に発する高熱では軽油も発火する可能性が高くこの点に関してもガソリンが一方的に 不利とも言えない。米独がガソリンエンジンを採用したのはそれらを勘案しての結果であろう。

戦時中、日本が戦車用エンジンにディーゼルを採用した事は実戦的な対応だったと肯定的に捉えられる事が多いが別の視点で考えてみる必要があるかもしれない。


九〇式五糎七戦車砲と九一式車載軽機関銃

八九式中戦車は同時期の外国製戦車と同じく歩兵支援が主任務であり武装は短砲身(18.4口径)の九○式五糎七戦車砲であった。 この砲は垂直自動鎖栓式の閉鎖機で速射性には優れていたが初速は380m/sに過ぎず対米英戦において対戦車火力としては全く期待出来なかった。

八九式の主武装は歩兵支援用の九○式五糎七戦車砲だが武器学校の車両には木製レプリカを搭載している。車体前面と砲塔後部に計2基装備している機銃は十一年式軽機関銃を改造した九一式車載軽機関銃、 十一年式同様に故障の多さに泣かされたと思われる。
武器学校で保存されている八九式中戦車乙型

陸上自衛隊土浦駐屯地・武器学校で保存されている八九式中戦車乙型は1980年に稼働状態に復元された事がある。この時は極力オリジナルに近い状態で復元されている。 その後は暫く静態保存されていたが2007年になって再び稼働状態に復元された。この際は老朽化が進行していたのでオリジナルに忠実な復元は不可能で現代の技術を投入した復元となった。 エンジンもオリジナルではなく現代のディーゼル・エンジン(建設用重機のエンジン)を搭載している。

トランスミッションやコントロールギアも換装されており構造的には旧軍時代とはかなり異なるものとなったが予想以上にキビキビ走る。 燃料やオイルの品質も格段の差があり当時の車両とは機動力・機械的信頼性も比較にならないだろう。旧軍の車両はこうはいかなかったハズだ。但し最近では更なる老朽化により走行はかなり厳しく なっているようで創立記念行事でも走行展示はほとんど行われなくなっている。

(写真左)
車体後部のソリ状の装置は超壕(塹壕を突破)する際に使用する


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